失敗しない栽培実習の計画立案のポイント
許可免許で技術を指導することになりました。栽培に関してはほぼ未経験者です。校内の職員に家庭菜園経験者もおらず、困っています。
教員時代、私も許可免許で技術を指導したことがあります。栽培実習のヒントやポイントをお教えします。
学校の敷地内に露地栽培できる場所がありません。大丈夫でしょうか?
手軽なプランター栽培や露地栽培で失敗しない方法を紹介します。
私が35年の実習で培った栽培実習での計画立案のポイントは次の2点に絞ることができます。
① 学校の年間授業計画にあった、夏休みなど避けて栽培収穫できる作物の選定
② 栽培カレンダーの作成
年間授業計画に合った作物を選定して、栽培カレンダーを作成してスケジュールを組むことができれば、まず失敗はありません。
では、どんな作物を選んだらいいのか?という問題については次の見出し以降で詳しく解説していますので、最後までご覧ください。
計画立案と実習授業で役立つtips10選
栽培ほぼ未経験の若手の先生が中学技術の栽培実習で生徒さんたちに教えるときのヒントをtips10としてまとめてみました。
① プランター栽培土選びに関するヒント
② プランター栽培作物選びに関するヒント
③ プランター栽培害虫対策に関するヒント
④ 生徒さんが家で再現するときの教え方のヒント
⑤ 水耕栽培に興味を持ってもらうためのアイデア(ヒント)
⑥ 露地栽培のときの作物選びのヒント
⑦ 露地栽培のときの鳥獣被害対策
⑧ 露地栽培のときの保管方法(サツマイモ・里芋)
⑨ 露地栽培でサツマイモが栽培できない場合の対処法と代替作物7選
⑩ 中学技術の実習授業ではおすすめできない露地栽培作物4選
上記について、以下の見出しで詳しく解説していきます。
まず、軒先やベランダでもできるプランター栽培の実例です。
生徒さんの家の出窓でも栽培できます。
出窓を使ったプランター栽培写真です。
見出し「tips④生徒さんが家で再現・・・・」
で詳しく説明しています。
tips①プランター栽培土選びに関するヒント
失敗しないための土として、一番におすすめしたいのは株式会社プロトリーフ社の
「プロトリーフ」
です。
プロトリーフの入手はとても簡単でAmazonや楽天でも安価で購入可能です。
上の【プロトリーフ かる~い培養土 5L】の特徴は次の通りです。
・可燃ごみとして捨てることができる培養土
・実習が終わった後の処理も楽
・ナメクジなどの害虫対策にも適している
・安価で手に入れやすい
注意事項
・昨年の実習で使ったであろうプランターの土の使いまわしは厳禁です。
・連作障害、害虫の発生などあるので、土の使いまわしは、3年ほどプランター土の再生を試すという経験を積んでからします。
この記事では新しい培養土を使うことを前提に説明をすすめます。
プロトリーフ 粒状かる〜い培養土 5L コバエ対策【HLS_DU】 関東当日便 価格:640円 |
tips②プランター栽培作物選びに関するヒント
【1学期に実習を計画する場合におすすめも作物4選】
1.サニーレタス
2.リーフレタス(結球しないレタス)
3.バジル
4.春菊
[おすすめ理由]
・害虫対策の心配がほとんどない
・外葉から少しずつ取っていく「かき取り収穫」が長期間可能
【2学期に実習を計画】
1. 小松菜
2. チンゲンサイ
3. 春菊
4. 小カブ
5. ラディシュ
[おすすめ理由]
・いずれも種まきからしっかり成長する
間引き体験もできる
[注意点]
・害虫対策が必要
栽培カレンダー作成事例
実際に4月から12月までの栽培カレンダーを作成してみましたので参考にしてみてください。
栽培カレンダーでは、日本を大きく暖地、寒冷地、中間地に分けます。
この記事は中間地を対象に書いています。
学校の昼食時にその都度プランターからとって食べられるといのですが、衛生上許可がおりないでしょうね。
家庭科と連携し、収穫物は調理実習に使うのが現実的でしょう。
【一学期実習】
サニーレタス、リーフレタス(結球しないレタス)、バジル、春菊
・[4月中旬] 苗移殖一週間前畑または、プランター準備
※春菊は種からで大丈夫、種まきから育てます
・[4月下旬] 苗の移殖(生育が確実なのは4月下旬まで)
(サニーレタス、リーフレタス、バジル苗)
※移殖から40日前後で外葉から少しずつ取っていく「かき取り収穫」が長期間可能
・[7月上旬] プランタ片付け
※レタスなどは、種まきからの栽培実習は難しいです。
【二学期実習】
小松菜、チンゲンサイ、春菊、・(小カブ、ラディシュは30日後で収穫)
・[9月中旬] 種まき一週間前畑または、プランター準備
・[9月中下旬] 春菊、小松菜、チンゲンサイ種まき
・[その2週後] 小カブ、ラディシュ種まき
※害虫の被害にあいやすい、対策随時
※春菊、小松菜、チンゲンサイ種まきから50日前後で「かき取り収穫」が長期間可能
・[12月上旬] プランタ片付け
tips③プランター栽培害虫対策に関するヒント
私の経験から、栽培実習中の害虫対策で特に気を付けるべきは次の4種です。
1. アオムシ
2. アブラムシ
3. ハダニ
4. ナメクジ(カタツムリ)
2学期に実習する場合、特に注意が必要です。
そのポイントとしては以下のことがあります。
・小松菜、チンゲンサイ、小カブ、ラディシュ栽培時は主としてアオムシ対策
殺虫剤を使わないなら随時手でつまみ除去
・アブラムシ、ハダニは作物の生育状況を観察し見つけたら殺虫剤を散布
・ナメクジ(カタツムリ)はプランタの底をチェック
また、写真のようなはった跡がないかもチェック
昨年からの使いまわしの土をプランターに入れた場合はナメクジの卵が残っているでしょうから、ほぼ下の写真のような状態になると思ってください。
tips④生徒さんが家で再現するときの教え方のヒント
生徒さんが自宅で栽培する場合のおすすめは次の通りです。
1. ミニトマト(一番おすすめ)
2. 実習用に紹介した作物のほかにハーブ系、ネギ、シソ、大葉
3. 要領がつかめたら、イチゴ
・おすすめの理由
[1] 収穫時期を気にせずに作れるので、学校では栽培が適当でなかった作物の栽培が可能
[2] 室内出窓での栽培は上記の使い捨て培養土なら、コバエ(ショウジョウバエ)の害虫発生がかなり防げる
[3] ふつうにスーパーとかで売ってるのより美味しいものが作れる、何しろ新鮮!
[4] ミニトマトはスーパーで買うより安い、「店で買うよりお得」
生徒が家庭で栽培する時のイメージ
栽培カレンダー作成事例
イチゴ以外は学校での栽培実習と同じカレンダーで栽培が可能です。
イチゴ栽培は学年がまたがるので、家庭で栽培するのがおすすめ
イチゴ栽培時のポイントや注意点
・ 室内(出窓)栽培の時は花粉を運んでくれるミツバチなど昆虫がいないので、イチゴは化粧用の筆で人工授粉が必要
うまく受粉しない時もあるので、よく観察
・ ベランダ栽培や露地栽培だと熟した実は鳥に食べられることがあるのでよく観察しタイミングよく収穫
室内だとその心配はない
・ 10~11月苗植え、5月収穫と長い期間の栽培
使いまわしの土だと、ナメクジやハダニ対策が欠かせない
tips⑤水耕栽培に興味を持ってもらうためのアイデア(ヒント)
教科書にも記載のある「水耕栽培」について、経験からヒントになりそうなことを書いておきます。
【教室の後ろで水耕栽培の見本を設置 ミニトマトなら簡単】
生徒に見せるためだけに1個だけ作り、管理は先生がされたらどうでしょうか。
水耕栽培は水槽とか容器にハイポニカの溶液を入れてます。
濃度はネットで説明しているサイトが多数あります。
ミニトマトを水耕栽培してみてのメリットとデメリット
メリット
・ 室内でしてもポンプで水を循環、フィルターでろ過しますから、虫がわかないのとカビ等も生えない
・ 片づけ時(廃棄時)、土がない分手間がかかわない
デメリット
・ 光が当たると藻がたくさん発生するのがマイナスといえばマイナス
・ 日当たりを良くすれば、育てるのは簡単、ただ、長い支柱とそれを固定する器具も必要
・ 水耕栽培キット (水耕栽培専門店のエコゲリラ) を購入されることが手軽だが、高額
大きなホームセンターに行けば、手ごろな価格のキットがあります。
学校に熱帯魚用水槽が余っていれば、写真のように使えば、容器代分は安く水耕栽培ができます。
tips⑥露地栽培のときの作物選びのヒント
失敗しないおすすめ作物は
サツマイモ 「紅はるか」
[おすすめ理由]
・ 肥料に気を配らなくても大丈夫
・ 他のサツマイモと比べて育てやすい、わりと手間いらず
・ ツルを植えた時だけは乾燥に注意するが、根がつきさえすれば乾燥にも強い
栽培カレンダー作成事例
ツルを購入して、植え付けます。
ツルを植えた時だけは、水をたっぷりとやり、乾燥に注意します。
・[5月上旬] 土を耕す(畑準備)
・[一週間後] マルチをはる(除草作業を実習に入れるなら、はらなくてもいいです)
・[5月下旬6月上旬] 購入したツルを植え付ける
※ ツルが茂ってきたら、つる返しをしてヒゲ根を切る
ツルを植えてから120~140日が収穫の目安
・[10月中下旬] 収穫
・[11月上旬] 畑の片付け
私が見た令和2年2月発行の教科書には「連作障害」のことはコラムとして書かれていました。しかし、実際に菜園をするときは連作障害対策のための栽培計画が重要になります。
学校だと、昨年度その畑で栽培していた作物を確認し、連作障害が出ない作物を選ぶ必要があるわけですか? 指導する教師が変わることもあるので、面倒ですね。
その点、サツマイモは連作障害に強いです。
また、土壌酸性度も特にきにせずとも大丈夫です。
「サツマイモ 基腐病(もとぐされびょう) 」という病気が広がっているのが心配ですが、これ以外では病気の心配はまずありません。
土つくりの際に、パーク堆肥:牛フン堆肥を2:1 を kg/㎡ すき込んでおけば、毎年サツマイモ栽培ができます。
家庭科と連携し、収穫1,2か月後に調理実習で使えたら、いいなと思います。
下で書いていますが、2ヶ月熟成させれば、スーパーの出入り口付近で売っているねっとり焼き芋とそっくりの焼き芋が作れます。
サツマイモは「紅あずま」「鳴門金時」「安納芋」「シルクスィート」などありますが、
「紅はるか」が一番管理がしやすいという印象です。
tips⑦露地栽培のときの鳥獣被害対策
学校での実習経験や家庭菜園での体験から、鳥獣被害対策について書いておきます。
先生が実習に使おうと考えている畑の立地条件で対応が異なります。
大きくは以下の4つになります。
1. モグラ・ネズミ(小動物)
2. イノシシ
3. 鹿
4. 害虫(コガネムシ)
[1] モグラとモグラが掘った穴を使ってサツマイモをかじるネズミ対策
私の畑では、下の写真の道具が予防効果がありました。
ただ、左側の動物を検知して光と音で追い払うという装置は効果のほどはよくわかりません。
右側の不定期に振動して、モグラを寄せ付けない装置が有効だったと思っています。
[2] イノシシ対策
私の畑は策をしています。
学校またその近隣で過去イノシシ被害にあったことがあるなら、電気柵が便利です。
※注意【生徒が感電することがないという条件が作れるなら設置します】
豆知識ですが、作物によっては(スイカとか)小動物と鳥の2重の対策が必要な時もあります。
私の畑では、小動物対策のネットもはっています。特に鳥対策が重要です。
[3] 最近、私の地域では鹿対策も必要になりました。
学校近隣で鹿の被害があるようなら、サツマイモのツル苗を植えた時にネットをはっておきます。
茂りだしたら、ネットは取ります。
学校近隣で土を掘り返して、サツマイモを食べられたということがあるなら、イノシシ同様9月以降に電気柵を設置します。
赤い色に警戒するとか、ひもが張ってあると角がひもにかかるのを嫌がるからとか、聞きますが、ちょっとの間効果があるだけで、実はお手上げです。
※サルが出る場合は、露地栽培はほぼ不可能です。
鹿、イノシシ被害が予想されるが、電気柵の設置が生徒の安全上できないなら、土地があっても、プランター栽培で紹介した作物を検討してください。
見出し「tips⑨露地栽培でサツマイモが栽培できない場合・・・・」に改めて書いています。
[4] 害虫(コガネムシ)対策
すみません、これに正確なことはわかりません。
学校でサツマイモを栽培した時、コガネムシ被害で困ったという記憶がありません。
栽培実習をした学校の畑、私の畑にはコガネムシの幼虫の天敵、カエルがかなり生息していました。
わたしの自宅の畑に関しては天敵のヤモリもいます。
そして忌避植物 紫蘇、ニンニク、スイセンを真横ではないですが、植えています。
多分コガネムシがかじったのだろうと思われるサツマイモがたまにありますが、これぐらいなら、農薬散布はしたくないです。
対策が必要なのか、判断がつきかねます。
tips⑧露地栽培のときの保管方法(サツマイモ・里芋)
作物により、美味しく食べる方法が異なります。サツマイモは熟成をさせることで一層美味しくなりますので、その方法を書いておきます。
段ボールに入れ、調理実習日まで保管
写真のようにダンボールにもみ殻と一緒に入れています。
もみ殻を一緒に入れた場合は箱の中には何が何個入っているか書いておきます。
そうしないと後で面倒。
さつまいもは1月2月になり、熟成が進んだら超うまいですよ。
学校で12月中に調理実習で使うという予定ができるなら、ただ段ボールに入れ暖かい場所で保管することで大丈夫です。
さつまいもや里芋は寒さに弱いです。
昔は畑に穴を掘って保存していました。
でも、それすると取りに行くのが面倒です。
そこで、もみ殻とダンボールを活用。
ただ、2月一杯が保存の目安、3月になると腐り始めます。
【生徒に話せる豆知識】
スーパーで買うサツマイモも2週間ほど熟成(追熟)させるとグンと美味くなるはずです。
そのためだけにもみ殻は買えないでしょうから、「サツマイモ、追熟」とかでネット検索したら保存の手軽な方法がわかります。
ちなみに我が家は焼き芋が作れるホームベーカリーを買っています。
熟成ができていれば、ドラッグスストアーやスーパーで売っている焼き芋と変わらないものができます。
【気をつけて】
面倒なのに、昔はなぜ畑に埋めていたか?
ネズミとかに食べられないためじゃないでしょうか。
我が家は愛ネコCOCOちゃんがいるので、この保存方法で大丈夫です。
ネズミがいるかもと思われる家では、保存(熟成)はしない方が無難です。
【気をつけて その2】
市販のサツマイモは大丈夫と思うけど、鳴門金時、安納芋、紅はるか など甘みの強い品種は小動物に大変ねらわれます。
収穫時に、ちょっとでもかじられたり傷がついているサツマイモは熟成させると傷の部分から痛み(えぐ味)が増します。
熟成はあきらめ、スィートポテトとかにして、サッサと食べてしまいましょう。
tips⑨露地栽培でサツマイモが栽培できない場合の対処法と代替作物7選
露地栽培で上で解説したように鳥獣被害対策ができず、サツマイモが栽培できないケースもあります。
その場合、以下の代替作物をおすすめします。
[aグループ] サニーレタス、リーフレタス、春菊(きく科)・バジル(シソ科)
[bグループ] 小カブ、ラディシュ、小松菜、チンゲンサイ(アブラナ科)
サツマイモ等の芋類を栽培できない理由としては、イノシシ鹿対策で電気柵が設置できないことでしょう。
その場合は、栽培がしやすく、連作障害の対応がしやすい上記作物2グループを隔年で栽培すると、実習に影響が出にくくなります。
鹿は上記作物を食べるため、鹿対策としては最低1mの動物よけネットを設置
これはプランター栽培時でも同じ
【栽培カレンダー】は、見出し「tips②プランター栽培作物選び・・・・」に従ってください。
プランター栽培で紹介した作物ですが、ラディシュ、小カブ、春菊、小松菜は種から栽培します。
サニーレタス、リーフレタス(結球しないレタス)、バジルは苗を購入して育てます。
露地栽培での種からの栽培は難しいです。
tips⑩中学技術の実習授業ではおすすめできない露地栽培作物4選
中学技術の実習授業ではおすすめできない露地栽培作物があります。
ここでは代表的な作物4品種をご紹介しておきます。
・ カボチャ
・ トウモロコシ
・ ミニトマト
・ キュウリ
カボチャ、トウモロコシは連作障害に強く、ミニトマト、キュウリはお手軽感から候補にあがりやすいですが、学校での実習作物としてはあまりおすすめしません。
その理由を次に書いておきます。
参考にしてください。
カボチャ
4月中下旬ごろ苗植えができる
連作障害に強い。
しかし、ウドン粉病に感染しやすく、一度発生すると翌年から確実にその畑周辺でウドン粉病が発生する。
そうなると収穫が早いか、ウドン粉病で収穫できなくなるかを競うような感じになる。
トウモロコシ
4月中下旬ごろ苗を植える
わりと連作障害が出ない。
肥料食いなので、土つくりの時かなり肥料が必要。
また、受粉時に害虫対策が必要。
一番の問題点は収穫のタイミング。
同じ日にトウモロコシ苗を植えても収穫は 7日ぐらいばらつきが出る。
技術は週に1回しか授業がないことが多いから、二重に不便。
ミニトマト、キュウリ
ともに収穫のピークが夏休みだから
キュウリは植えるタイミングで夏休みを外すことができるが、
一人ひと苗を植えたのでは、収穫量が多すぎ処分に困る。
SDGsが呼びかけられる中、
廃棄物のことも考えると、
学校での実習に好ましい作物ではない。
終わりに
学校で実習したことがきっかけで、家でも栽培をやってみようと思う生徒ができるような手軽な作物とその栽培方法を紹介しました。
現在は学校の立地条件なり実情に応じた栽培実習をされています。
将来は、ICTを活用した水耕栽培という全国共通の栽培実習標準モデルができるといいんじゃないか、と思ったりします。
それを体験した生徒が、家でそれぞれに栽培を楽しんでみる。
そんな近未来を想像しながら、ちょっとでも楽しい実習をされることに役立てば嬉しいと記事を書きました。